はるか昔、ケイオスがはじめてこの世界に解き放たれた時、エルフのチャンピオンであるアナリオン王は祭壇から戦慄すべき"カインの剣"を抜き放ち、剣の恐るべきパワーを用いて、エルフたちを滅びから救った。アナリオン王の死後、息子のメルキスは王位を継ぐに相応しくないと考えられた。メルキスは強壮な戦士であり、偉大な妖術師、傑出した将軍、正統な後継者であったのだが、エルフの多くはメルキスの戴冠に反対した。メルキスの関心が戦いにばかり向いており、ハイエルフという種族に不安定な影響を及ぼすのではないかとハイエルフたちは恐れたのだ。その報復に、メルキスは何年もかけて恐るべき内戦を計画し、エルフをふたつの勢力に分断しようと画策した。
勝利を収めたのはハイエルフたちで、ダークエルフは先祖代々の故郷を追われることとなった。魔虐の王メルキスと、その母である女妖術師モラスィの指揮のもと、ダークエルフたちは西尊大海を船で横切り、ニュー・ワールドの北部にあらたな王国を築いたのだった。ダークエルフはここをナーガロス、すなわち"底冷えの国"と名づけた。
激情に押し流されないよう自分の感情を抑えようとし続けているハイエルフとは異なり、ダークエルフはその快楽主義的な性向をむしろ喜んで受け止めている。ダークエルフの社会では、個人主義、利己主義、自尊心が重んじられる。彼らは互いのことをほとんど気にかけず、他の種族にいたっては奴隷か下僕の候補としか見ていない。
戦いでは、ナーガロスの残忍な戦士たちは、エルフの軍規に残虐さ、獰猛さを混ぜ合わせる。ダークエルフの守護神、カエラ=メンシャ=カイン、血まみれの手を持つ神にして殺人の君主(殺戮神)に仕えるためだ。美しくも危険極まりないウィッチエルフ以上にこの特徴をありありと示すものはない。ウィッチエルフたちはカインの神殿に仕えており、暴力と流血に酔いしれているのだ。
ウルサーンを追放されてこの方、ダークエルフが何より望むのはウルサーンに戻り、かつての敗北の復讐を果たし、彼らの物と信じてやまない土地を取り戻すことだ。裁きの時代において、メルキスは近い将来ケイオスがエンパイアに侵攻することを知り、この情報をもとに、故郷の島に攻め入るべく、エルフたちの防御を弱体化させる計画を練り上げたのである。魔虐の王の命を受け、ウルサーンの島を征服し、はるか昔には実現のかなわなかったドゥライチの宿命を果たすべく、ブラック・アーク(兵士や怪物、大型の兵器を積み込んだ巨大な浮島)の大艦隊が出港した。
ダークエルフとハイエルフの争い[]
ウォーハンマー世界の歴史において無数に存在する抗争のなかでも、高貴なハイエルフと、その邪悪な血縁である、腹黒いダークエルフとの闘争ほど長く苛烈なものはない。
この古くからの争いが、裁きの時代のまさに中心となっている。ダークエルフの魔虐の王メルキスは不死鳥王の玉座を奪い返すことに取り憑かれてきた。不死鳥王の玉座はメルキスが継承権を有していたが、数千年前ハイエルフたちによって拒絶されたのである。暗黒の神々の新しいチャンピオンがエンパイアへと侵攻中であることを知り、ダークエルフたちの悪逆非道の支配者メルキスは、ウルサーン島を征服し自らが全エルフ族の真の王者となるための計画を考案したのだった。
ケイオスの軍勢がエンパイア北端に到達すれば、疫病に苦しむエンパイアは援助を求めるであろうことを知った魔虐の王は、策をめぐらせてドワーフがエンパイアの呼びかけに答えられないようにした。メルキスは邪悪な妖術を用いて魔力のこもった護符を作り、勢いのあるグリーンスキンの部族、血みどろ太陽族(ブラッディ・サン・ボーイズ)のリーダー2名にこの護符を1つずつ与えたのだ。護符を手にしたオークは見る間に巨大な軍団を築き上げてドワーフを攻撃し、この戦争は最果て山脈全域に拡大していった。
思い描いたとおり、ケイオスの軍勢は恐ろしい勢いでエンパイア北部の州へと到達した。ドワーフが生き残りをかけてグリーンスキンの大軍と戦っていることを知った皇帝は、ウルサーンの王侯たちに助けを求めなければならなくなった。絢爛たる都市ローザンでにおいて、ハイエルフの不死鳥王フィヌバールは、火急の嘆願を受けたのである。
賢明なる不死鳥王は、人間とハイエルフの運命が深く結びついていることを知っていた。エンパイアが禍つ神々の手に堕ちれば、次にはウルサーンが同じ運命を辿ることになる。フィヌバールはティリオンの君をシャイニング・ガードの将軍に任じた。シャイニング・ガードは、王の不在中にハイエルフの祖国を守るために組織された精鋭部隊である。こうして、フィヌバールとその軍団はオールド・ワールド目指して出港した。
ハイエルフの船団の白い帆が水平線の彼方に消えると同時に、きらびやかなローザンの往来から驚きと恐怖の叫びがあがった。大理石の通りと銀の塔を、巨大な黒い影が覆ったのだ。ダークエルフのブラック・アーク(漆黒の方舟)の艦隊が海面を満たしたのである。ブラック・アークは巨大な石造りの海上要塞で、その内部はドゥライチ、すなわちダークエルフの軍団と、凶暴で憎悪に満ちた魔獣どもで満載されていた。ウルサーン侵略がはじまったのだ。
日が経ち、賢者の評議会に従って、フィヌバールはエンパイアとドワーフの国土を援助すると誓いを立てた。ダークエルフによる襲撃という慄然たる報告をフィヌバールが受けたのはその晩のことである。同盟者とともに戦う戦士たちをいくばくか残し、フィヌバールは船に戻ると祖国に急ぎ引き返した。果たしてフィヌバールは間一髪で民を救うことができるのか、はたまたメルキスの奸計がすでに勝利を収めたか? ハイエルフの希望がすべて潰えれば、人間とドワーフの命運も尽きるのである。
ウソリン家[]
ダークエルフの貴族の家門のなかでも、ウソリン家ほど権勢を誇るものはおよそない。一族の家長にして支配者、ウソリン公は陰謀と政争の達人である。噂によれば、ウソリン公は魔虐の王の玉座を狙っているとのことだ。それが事実だとしたら、ウソリン公はよくよく野心を隠しおおせているといえるだろう。王になるより、忠実な相談役にとどまることを好むように見せかけているからだ。
ウソリン公の嫡男、カロス・コールドシャドウは権謀術数を用いて、ダークエルフによるウルサーン攻撃のさいにウソリン家が先陣を切る特権を得た。ウソリン家の戦士全員に加えて、ビーストマスターとその恐ろしい魔獣たち、熱狂的なカイン神の信徒ども、そして強力な暗黒の魔術の使い手たちを乗せて、ブラック・アーク(漆黒の方舟)のネメシスは海を渡った。かくして全軍が集結し、ウソリン公は手始めにカイン神の祭壇に近い滅びの島に攻め入ることにした。
しかし魔虐の王には彼なりの計画があった。ウソリン公がダークエルフ支配の野望を抱いていることなど重々承知しており、メルキスはウソリンのもっとも有力なライバルであるレディ・アルカネスに命じて、彼女にも侵略軍を率いて滅びの島に上陸させたのである。冷酷にして計算高い魔虐の王は、権力を誇るふたりのライバルを鉢合わせさせ、互いに争って消耗させることで、自分への脅威が失われるように仕向けたのである。
ウソリン公は持てる狡知と用心深さの限りを尽くして、レディ・アルカネス、魔虐の王メルキス、ハイエルフのすべてをまとめて打ち負かす必要があるだろう。公が成功をおさめれば、ウソリン家への忠誠に対する見返りは計り知れないものになるはずだ。